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2012.03.25 13:53|さくら、きみに、さく
石碑まで戻ってきた佐久間は、上着から携帯を取り出していた。
警察か学校に連絡するべきだ。

この一本道で、美弥がいなくなるなんて事考えられない。
なら、道を間違えたか何かあったか。
どちらにせよ石碑を見つけたならそこにいるはずだから、ここに辿り着けなかったと考えるべき……。


そこまで考えた時、佐久間の視界の端に見慣れたものが映った。
「……」
どくりと血の気が引くような、そんな感覚に陥る。

「……これ、美弥の?」

手を伸ばしてそれを拾い上げると、掌にのせてじっと見る。

黒の、髪留め。
クリップタイプのこれは、確か美弥の祖母である偲が彼女に上げたものだったはず。
いや、でもありふれた形のありふれた色。
美也の物だと、確信はない……けれど。


もし、美弥のだったとしたら。
ここに辿り着いたのに、ここにいない……?


それは?


「美弥! 近くにいるのか!?」

佐久間の声が、辺りに響いた。






「? 主様?」

その頃、ももの愚痴を聞きながら喋っていた美弥が、隣に座る青年を見上げた。
なんの前触れもなく、立ち上がったのだ。

青年はある一点をじっと見つめて、それから美弥へと視線を移した。

「君を呼ぶものが、外にいる。心当たりはあるかい?」
そう言って、右の掌で美弥の目を塞いだ。
途端、飛び込んできた光景に驚いて声を上げた。
「佐久間!」

それは、美弥の名前を呼ぶ佐久間の姿だった。
美弥の声を聞いて、青年はその右手をどかす。
「君の知り合いなのだね。ならば、送れる」
そう言うと、しばとももが何か言いたそうに美弥と青年を交互に見つめた。
どうしたのかと声を掛ける前に、青年が二人に声を掛けた。

「きちんと送り届けてきなさい」

「……主様」

ももが口を開いたけれど、それを無言で青年は止めた。
しゅんと肩を落としたももの頭を撫でると、青年は美弥を見た。

「悪かったね、巻き込んでしまって。さぁ、二人に送らせるから戻るといい」
ふわりと体を、温かい何かがつつむ。
そして背に手を添えられた時、美弥は慌てて青年の腕を掴んだ。

「名前は? あなたの名前!」
驚いたように目を目を見開いた青年は、小さく頭を振った。
「もう、二度とここに来てはいけない。しばとももがもし何か言ったとしても、駄目だからね」

添えられていた手が、とん、と軽く美弥の背を押した。


途端。



「うわっ?!」


足が地面から浮いたような感覚。
そしてすぐに感じた、空気の抵抗。
ここに来た時と同じ、ゼリーの中を進んでいるようなそんな状況で。


最後に見えたのは、じっと美弥を見つめていた青年の姿だった。



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2012.02.12 18:06|さくら、きみに、さく
その間、美弥の後から石碑へと歩いてきた佐久間が何をしていたかというと。

「美弥!」

美弥を探していた。
石碑の前に辿り着いた時、美弥の姿はそこになかった。
一本道だし迷う事はないと思っていた佐久間は、しばらくその場で美弥がやってくるのを待っていた。
さすがにこんな短時間で、美弥に何かが起こるわけがないと高を括っていた。
少なくとも、十七歳。
何が危ないか、安全か位の判断はできるだろう。
……、と思っていたのだけれど。

流石にその時間が十分を越した時点で、何かあったと判断した。
自分よりも先に、しかも走って行った美弥が、十分以上遅れてここに辿り着くわけがない。

慌てて、その先へと続く道を辿って走った。
もしかしたら、石碑を見落としているのかもしれない。
そう思ったのだけれど。
十五分以上道を行きすぎても美弥の姿は見つからず、往復三十分。佐久間が美弥と別れてから考えれば、すでに一時間近くになっていた。

「美弥! どこにいる?!」

傍に崖があるわけじゃない。
穴が開いているわけじゃない。
いなくなる要素が、まったくないのに。

元の石碑の場所まで戻ってきた佐久間は、その石に手をついて荒い息を繰り返した。





「桜の精、ですか」
大木の根元に腰を下ろして、青年の言葉に相槌を打った。


とりあえず外に出られないことは分かったし、しかもどうにもならないことも理解OK。
佐久間が気になるけど、まぁ仕方ない。
そう言ったら、青年だけじゃなくしばにももにも呆れられたけど。
ていうか、二人の所為なんじゃなかったっけ? と凄んだら、くるりと体を丸めて青年の足元に横になった。
……逃げたな


今は、青年の話を聞いていた。


「そう。私はこの木なんだ」
ざらりとした音を立てて、青年の掌が幹を撫でる。
ぱらぱらと、細かい木屑が地に落ちて行った。
それを視線だけで追うと、くすりと青年が笑う。
「驚かないのか? 随分、冷静に聞いてるな」
顔を上げて青年を見れば、美弥は微かに目を細めた。
「う~ん、まぁ不思議な話ではあるんだけど。でもこの子達がこれだけ慕う人の言葉だから、信じたいなっていうのが本音かなぁ」
「しばとももの事、本当に気に入ってるのだな。先ほど、二人を庇いながら私を叱っている姿は、とても真剣な表情だった」
「あ~、もう忘れてクダサイ」
頬を指先で掻きながら、少し前の自分の行動を思い返す。

事情も知らずに、よくあそこまでこの人を非難できたものだわ。
思い返しても恥ずかしい。

俯けた頭を、青年がゆるゆると撫でる。
「それだけ二人を大切に思ってくれたという事だろう。それなのに、申し訳ないな。こんなことに巻き込んで」
私が帰してやれればよいのだけれど、と青年はため息をついた。


「あなたも外に出られないの?」
主とか呼ばれている人なのに?
素朴な疑問を口にしてみれば、まぁ……と呟く。

「出られないのではなく、この結界を維持するために出ない、という方が正しい」
「維持?」
「そう」
それだけ言うと、この話はもうお終いとばかりに足元で丸くなるしばとももの頭を撫でた。
美弥は嬉しそうに目を細める二人を見ながら、そういえばと口を開く。

「二人も、桜の精なんですか?」

あなたを主と呼ぶならばと続けると、青年は頭を振った。

「この二人は、迷い込んできた柴犬。命が尽きる際、私の庇護下に置いた……言うなれば狛犬、かな?」
「あぁ、それで“しば!”」
柴犬の、しばから名前をとったんだと思いついて、ももに視線を向ける。
ももは丸くなっていた体を起こして、私の膝に両手を置いた。

「そうなんです、主ってば名づけの才能はひとっかけらもないんです! 私、もう少しで“いぬ”って名前にされそうになったんですわ!」
「い、いぬ?」
「柴犬だから、お前は“しば”。そしてお前は……って言われて、これはもう絶対“いぬ”にされてしまうって思って!」
ふんっ、と鼻息荒くももは話を続ける。
「主が名をつけ終えてしまえば私は“いぬ”と名乗るしかなかったので、お供えされていた桃を見て慌てて叫んで止めたんです! 私は“もも”がいいって!」


「そ、そうなんだ……」


主、意外性の男……。



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2011.11.11 18:13|さくら、きみに、さく
二人の名前なのだろう、呼ばれた子供達は嬉しそうな表情から泣きそうなものへとそれを変えた。
「主さま……」
女の子が、縋るように青年を見上げる。
けれど主と呼ばれた青年は、何も言わない。
ただじっと見下ろしているその姿に、子供達がびくびくと怯え始めた。

それを見ていた美弥は、非現実的な状況に呆けていた意識を切り替えて、両手を伸ばして二人をぎゅっと抱きしめる。
小さなその身体は、簡単に美弥の腕の中に納まった。
突然のその行動に、子供達だけではなく青年も目を見張る。
「こんなにあんたを呼んでたのに、二人を放ってたなんて」
憤りと、何か悔しさのようなものを感じながら睨みあげた。

青年の表情は、不思議なものを見るような色で。
その態度さえ美弥の気持ちを逆撫でして、膨れ上がった感情のままその口を開いた。
「どんなにこの子達が慕おうと、私にとったらあんたって最低!」
言い放つと、見開いた目をそのままに困惑したような表情を浮かべた。


思い出してしまったから。
置いていかれた時の、気持ちを。
平気な振りをして、全てを否定した。
自分には、何の価値もないのだと悟った。

その場所から引き上げてくれたのは、大好きな大好きな偲さん。


美弥は両腕に力を込めて、二人の身体を抱きしめ続ける。
この子達が、私と同じ思いをしないように。
この男にちゃんと言わなきゃ!

「大体ねぇ……っ」
そう言い掛けた美弥の言葉を止めたのは、意外にも子供達だった。
「おねえちゃん、ありがとう」
「でも、悪いのは私達なのですわ」
その言葉に、虚をつかれたように美弥は腕の力を緩めて二人を見る。
「庇わなくたって、いいんだよ? こんなに小さい子を放っておく、この男が悪いんだから」
青年を庇おうとする二人の心情に、美弥は胸をきゅっと掴まれるような気分だった。
こんなにいじらしい二人を、なんで……!
余計怒りが増幅されて睨み上げると、やはり驚いたまま美弥を見下ろしていた青年と目が合った。

吸い込まれそうなほど深い色を湛える瞳は、二人を拒絶しているわけじゃない。
ただ、何かしら責めようとしている雰囲気が伝わってきて、どうしても美弥は口を閉じられなかった。
自分が引けば二人を責め始めるのではないかと、そう思えて。
「でも……!」
「……あなたは」
言い掛けた言葉を、今度は青年が遮った。

綺麗な、低音。
今まで聞いた事もない位、落ち着いた声音。

思わず、美弥は口を噤んだ。
それを見て、青年は再び口を開く。

「あなたは、その者達に触れられるのだな」

「……はぁ?」

疑問系の上、語気強く言ってごめんなさいよ。
コノヒト、顔はいいけど頭ないの?


胡散臭そうに声を上げれば、微かにその眉間に皺が寄る。
おっと、怒らせたかも?
少し身構えると、美弥の腕の中から二人が飛び出して青年の袴の裾に縋りついた。
「会いたかったです! 主さま!!」
「お叱りは如何様にでも受けますわ! でも、主さまにお会いしたかったんです!」
「……え?」

二人はまだ涙の乾かない目を必死に青年に向けて、ぎゅっとその幼い手で裾を握り締めている。
青年は溜息をつくと、両手を伸ばして二人の頭に置いた。
「……もうよい」
その声は呆れを含んでいるようにも思えたが、仕方ないと……微かに笑む表情が本音を見せる。
「泣き止め、二人とも」
その姿を見て、美弥は自分の行動が空回りだった事に気付いた。


きっと何か理由があって、この子達と会っていなかったんだ。
それは、二人も納得している事であって。
私みたいに、捨てられたわけじゃない……


同族意識のようなものを感じていた美弥は、少し寂しい気持ちになりながら目を細めた。

ちゃんと、居場所はあったんだね。
あぁ、でもよかった。

安堵した気持ちのまま、そっとその場所を離れる。
主さまに会えたんだから、もう、私は必要ないはず。
家に帰ろう。
偲さんの温もりが残る、私の居場所に……。

「何処へ行く?」
二・三歩足を進めたところで、青年の低い声に引き止められた。
美弥は顔だけ後ろに向けて、青年を見上げた。
その足元で、しばとももが涙を流したままこちらを見ている。
「帰るのよ、家に」
他に何があるの、そう続ければ青年は首を傾げて足元のしばとももに目を向けた。
「お前達、何も言わずに連れてきたのか」
「ごめんなさいっ」
その声に、ももが目をぎゅっと瞑って謝る。
しばにいたっては、びくんっと背筋を伸ばしたまま硬直していた。
「何?」
そのやり取りの意味が分からず怪訝そうな表情を浮かべれば、幾分申し訳なさそうに青年が口を開いた。

「ここは、結界の中。外からあなたを呼ぶものがいなければ、出してあげる事が出来ない」
「は?」
出してあげる事が出来ないって?
一語で問い返せば、二人をその裾から剥がした青年が傍まで歩み寄ってきた。
そして美弥の顔を覗き込むように、上体を曲げる。
その動きに合わせて長い黒髪が、美弥の視界でさらさらと揺れた。

「ここは現実であり、現実ではない。この子達に連れられて、現実の世から隔離されたこの場所にあなたは渡ってきた」
「え? 何、どういうこと?」
現実で現実じゃないって、言葉遊びじゃないんだから!
眉を顰めれば、青年は続きを口にした。
「結界を出るにはあなたの所有物を寄代に、表の石碑の場所であなたを呼び戻す人が必要だ。石碑が、結界の入り口ゆえ」
めちゃくちゃな、無理難題を。

脳内パニックに陥った私は助けを求めるように二人に目を向けると、がばっと頭を下げて謝罪する子供達。
「だから、おねえちゃんの方が迷子だよって言ったの! ごめんなさい!」
「ごめんなさいぃぃっ!」
「それだけでは、意味が通じないだろう」]

突っ込みさんきゅーです、主さま。
まったく意味、分かりませんでした。


12 14→

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2011.11.04 10:33|さくら、きみに、さく
目の前の幹に、再び掌をそえた。
冷たく拒むかのような雰囲気を纏う木肌に、温もりを移すかのように。

「主さま」

二人が呼ぶ名前を、口にする。

目を瞑って、満開に咲く桜を思い浮かべた。
薄い桃色の、儚い花びら。
風に吹かれ、視界を覆うほどひらひらと舞い、そして消えて行く。

偲さんは、それを見て、何を言っていたのだっけ。




ゆらり、偲の姿が脳裏に浮かぶ。
まだ自分が幼い頃、周りに奇異の目で見られていたあの頃。
それでも偲は、美弥を連れて町をよく歩いていた。

そうして散歩の途中、立ち寄った川縁の桜を見上げて偲さんは……


――美弥。綺麗だね、ほら、ピンクの花びら
風で流れてきた花片をつかまえて、私の手に乗せる。
――散れば……
視線は道路の隅に積もる花びらに向けられた。
手にした花びらが、風に攫われて宙を舞う。
そして道に落ちたのを見て、偲を見上げた。
――ごみ。
多分、自分に重ねていたんだと思う。
邪魔になって、母から捨てられた自分に。
――散れば、ごみ。
自分でも思う。随分と冷めた子供だった。
けれどあの頃は、捨てられた、と言う事実を理解する事で精一杯だったから。

――美弥

じ、と、花びらを見つめていた私の頭に、ふんわりと温かい掌がのった。
ゆっくりと、撫でられる。
顔を上げれば、驚くくらい穏やかで優しい表情で。
物凄く嫌なことを言ったのに、何で笑ってるんだろうと不思議で見つめた。

――私、桜が一番好きなのよ。

ひらり、再び目の前を通り過ぎようとした花びらを掌で受ける。
――桜はね、自らが生きる為に葉を茂らせる前に、花を咲かせて私達を癒してくれる。
――そんなの、そういうものだってだけ。
私達に、手足があるというのと同じくらい当たり前な事。
――そうね、そうかもしれない。けれど桜は、咲く事で他の存在を癒してくれるのよ。人だけじゃなく、鳥や虫も。
偲の視線が、桜に向けられる。
――そんな皆の幸せな気持ちを受け取って桜が綺麗に咲いていると思ったら、素敵だと思わない?
――あるわけ、ない。
思えば、なんてこまっしゃくれた子供だっただろう。
――桜が不幸せなら、何も咲かせてはくれないわ。きっと、枯れてしまうのよ。
――太陽と水があれば育つし。
最近読んだ本に書いてあった。
そんな可愛くない言葉にも、偲は笑ってくれる。
――想いは、全てを超えるのよ。……ねぇ、美弥。私はあなたが好きだわ
途中から自分に対して言われた言葉に、思わず口を噤んだ。

自分に向けられる視線や噂話に、私は気付いていた。
自分が、町の人から疎まれている事も。
だから、偲も本当は嫌がってるんじゃないかって、そう思っていた。

視界が、だんだんぼやけていく。

――だから、……願うの
指先で風に震える花びらを……そして美弥を、偲は愛しそうに見つめた。
――美弥が、私を好きになってくれますようにって

そして

――私がいなくなった後も、桜の花が美弥の心を守ってくれますように

そう言ってもう一枚花びらを手に取ると、私に差し出した。
手の中の、小さな花びらを見つめる。

――ねぇ、美弥。あなたは何を願う?




感じたのは、優しさ。
自分の居場所を見つけられた、安堵。
そして、未来を心配してくれるか細い手。


町に来て初めて、自分の居場所を見つけられたあの時――



美弥は込み上げてくる何かに抗いもせず、その頬に涙を零した。

あの時、口には出来なかったけど。
まだ捻くれてて、伝えられなかったけど。
あのね、偲さん。
私ね、あの時――


「いつまでも、桜が幸せでありますように――」


そうすれば、桜は花を咲かせてくれて。
いつまでも偲さんが私を好きでいてくれると、思ったの。


脳裏に浮かぶ偲の笑顔に独りになってからずっと我慢していた寂しさが溢れて、伏せた目じりから次々と涙が頬を伝う。

「偲、さん」

零れた涙が、自分の手に……そして木肌に落ちる。

「……主さま」

ぽつり、女の子の声が聞こえた。

「主さま!」

叫ぶ、男の子の声。

目を伏せていた美弥はふわりと温かい風が頬を掠めた事に気がついて、ゆっくりとその目を上げた。

「……え?」
ふわり、と揺れる、白い着物の袖。
その先の手は美弥の頬に触れ、ゆっくりとその涙を拭う。
頬から離れて行く指先を目で追っていた美弥の視界に、長い黒髪を纏う白い肌の青年が映りこんだ。
その表情からは、何の感情も読み取れない。
ただ黒いその瞳は、美弥をじっと見下ろしていた。

「主、さま?」

そう呟くと、美弥を見ていたその目を少し見開いて視線を横へと逸らす。
同じ様にその視線を先を辿ると、そこには涙を浮かべて青年を見上げる二人の子供の姿。

「……しば、もも」

初めて聞く声は、深く低く。
けれど、その声色は静かでどこか責めるような気配だった。


11 13

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2011.10.24 11:42|さくら、きみに、さく
美弥が二人の子供に引っ張られて小走りに進んできたのは、百メートルもない小道。
と言っても、下草が他の場所より少ないだけで、荒れているのは一目で分かったけれど。
自分にはなんでもなく走れる距離だったけれど、手を引いている二人には走るには長かったに違いない。

「ね、歩かない? 疲れちゃうでしょ」
とたとたと音がでそうな走り方の二人の手を、ちょっと力を込めて握ってみる。
けれど二人はぎゅっと唇をかみ締めたまま、懸命に足を動かしていた。
それを見た美弥は、それ以上何も言えずに無言で後ろをついて行く。


すると、突然――


「わ……」

視界が、ひらけた。



うっそうとした森の中に、ぽっかりと何も無い空間が存在している。
それは、目を見張る光景。
まるで、何者にも侵す事のできない、静謐な空気が流れている。

そして、何よりも――

「大きな……木」
その空間の中心に、大きな木が一本、真っ黒な肌を晒して植わっていた。
空に向かって枝を伸ばし、堂々とした姿を見せている。
けれど……

美弥は何か違和感を感じながら、その木に向かって歩く。
いつの間にか二人の子供は美弥の手を離し、その木の傍に駆け寄っていた。


「主さま、主さま」
「もうすぐお会いできますわ、主さま」


縋るようにその幹に小さな手を伸ばす姿は、まるで親に捨てられた子供のようだ。
ふと、自分の過去を思い出して美弥は目を細めた。
ぎゅ、と手を握り締めて自分の感情を押さえ込みながら、二人のもとへと歩み寄る。
「ね、主さまって、この木のことを言ってるの?」
「はい!」
問いかけに、叫ぶように答える二人は、真剣そのもの。
美弥は二人に気付かれないように首を傾げると、目の前の大木に視線を移した。

ぐるりと見渡せば、常緑樹なのか秋口だというのに緑の葉を生い茂らせている森の中。
しかし、なぜかこの木を中心にした狭い空間は、まるで意図的とも言えるほど何も生えていない。
生えていないというよりも、生えることを嫌っているというか。
そして、この、木。
周りが生き生きとしているだけに、余りにも差が激しい。
黒い木肌を見れば、桜の木なのだろう。
町にも幾本か植えてあるのを、偲さんと見に行った事がある。
大好きな花だと、そう、言っていた。
葉を茂らせるより早く、私達の為に花を咲かせてくれるのよ。と。
「……?」

そういえば、他にも何か言っていた気がするけど……。



「主さま」

女の子の悲痛な声音に、記憶から意識が戻された。
ぎゅ、と幹にしがみついている姿は、一種異様な姿。


……だけど。


おかしいと、頭では分かってる。
今、自分が考えている事は普通でいうなればおかしいのだろう
けれど主さまと懸命に名を呼ぶ二人からは、嘘や演技のようなものは感じられない。


「この木が、あなた達の大切なものなの?」


二人は大きく頷いて、私を見上げた。
「大切な、主さまです」
その目は、嘘をついているようには思えない。
真剣で、そして悲しそうで。
美弥は、そう……と呟くと再び木に視線を戻した。



ならば、二人には酷な状況なんだろう。

こんなに――


そっ……と、幹に手を伸ばす。

指先に触れた木肌は、ざらりとして。
それ以上に、もろく。
爪に引っかかった部分が、簡単に剥がれ落ちる。
それを目で追うようにして、美弥は表情を歪めた。

この木は、枯れようと、している。

なんでそんな事に気付けるのか分からないけれど、それでも美弥はきゅっと唇をかみ締める。

この木がもし枯れてしまったら、この子達はどうするんだろう。
すでに枯れかけているのに、こんなにも縋るのだから。


主さま、と口々に呼びかける二人の姿に、美弥の胸が締め付けられた。


主さま。
この子達の、拠り所。
この子達も、私と同じなのかもしれない。
置いていかれた子供は、いつまでも求めるのだ。
置いていった、人を。

大切な人、けれど……だからこそ憎いその人を。

私は、偲さんに救われた。
親を、憎まずに済んだ。
寂しさはいつまでも消えないけれど、温かい心を貰えたから。
居場所を貰えたから。


この二人にとっては、桜の木がそうなのかもしれない。
本来なら人から与えられるべき温もりを、この桜の木に貰っているのかもしれない。
それはとても寂しい事だけれど。
でも二人にとっては、それが今の全てなんだろう……。


10 12

あ、名前出てこなかった@@;

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2011.10.18 09:43|さくら、きみに、さく
まるで、ゼリーの中を無理やり引っ張られていくような、そんな感覚だった。
心許無い状態の中で、ただはっきりと感じられたのは、両手を握り締めている手の感覚だけ。

ほんの一瞬だったのか、それとも意外と長い時間だったのか。
ふっ、と宙に浮いた感覚の後、両足が地面についた。
戻ってきた感覚に、ぎゅ、と足を踏みしめる。

「大丈夫?」
くん、と右手を引かれ。
「大丈夫?」
くん、と左手を引かれる。


既に、恐怖はどこかにいってしまっていた。
何かを通り抜ける際の不思議な感覚の方が、恐怖を上回ったのだ。
美弥は自分を落ち着けるように深く息を吐き出すと、閉じていた目をゆっくりとあけた。

きゅるん

「……!」

まるで擬音が浮かびそうなほど純真無垢な真っ黒い瞳に心臓を打ち抜かれて、美弥は地面にへたり込んだ。
見上げていた四つの瞳が、美弥の動きと一緒に上から下へと移動する。
まだ握られたままの腕を懸命に引きながら、白い着物を着た二人の子供が必死になって声を上げた。
「おねーちゃん、大丈夫?!」
「やっぱり耐えられなかったのかしら!」
男の子と、女の子。
ただまだ小学生低学年位にしか見えない外見と同じで声も可愛らしくて、美弥はふるふると身体を震わせながら、ぎゅっと二人を腕に抱きこんだ。
「何この可愛い生き物!! ちょ、これ反則でしょ! 可愛すぎでしょ!」
「うぇぇっ」
「おねえさま、苦しいですわ!」
うげげ、と人とは思えない呻き声を上げられて、慌ててその身体を離した。
二人の肩に手を置いて、美弥はにこりと笑いかける。
「可愛くて、つい。驚かせてごめんね?」
まださっきの状態から抜けないのか、深呼吸をする仕草が可愛すぎ。
しかも、二人して同じタイミングとか。
美弥は緩みきった表情を隠そうともせずに、今度は自分から二人の手を取った。
「君たちは、なんでこんな山の中にいるの? 迷子?」
美弥はそう言ってから、二人の格好をちゃんと見た。

首周りや袖口に白い紐が通してあるこの形は、神社とかで神主さんが着ている様な物。
肩口に切れ込みがあって、真っ白な上着の下の着物もそして袴もやはり真っ白。
唯一、腰まである長い髪のサイドを細くくくってある女の子の使っている紐が、朱色だけに目立っている。
男の子は、普通でも見る髪型だ。
それでも着衣はどう見ても、現代日本でそこらへんの子供が普通に着ているものではない。
どの時代からタイムスリップしてきたと聞きたいくらい、常識とはかけ離れていた。

二人は確認という名の観察を続けている美弥を見下ろしていたけれど、お互いに目を見合わせてから申し訳なさそうに視線を戻した。

「迷子は、おねーちゃんの方だよ?」
「そうですわ、申し訳ございません」

女の子の言葉遣いが余りにも大人びていて、美弥は一瞬そちらに気をとられた。
どんだけ上流階級の子供なんだろうと感想を零してから、はた、と止まる。
主に男の子の言った言葉を頭の中で反芻してから、引き攣りそうになる口元を気にしながら首を傾げた。
「私が、迷子?」
問い返すと、二人はこくんと頷く。
「おねーちゃんにね、会ってほしい人がいて!」
「おねえさま、綺麗な顔、好きですわよね!? 普通、好きですわよね!?」
今度は女の子の言葉に、食いつくどころか若干引いた。
こんな子供が、綺麗な顔好きとか……。
えーと、純粋に、綺麗なものは愛でるとかそういうこと?
美弥はもう隠すつもりもないのか、引き攣った口元を晒したまま首を傾げた。
「えーと、どういう事?」
自分が迷子って言うのも、意味分からない。
綺麗な顔が好きっていうのも、意味が分からない。
好きかどうかで言ったら、要ちゃんの可愛いお顔が好きですが……。
二人の子供は離されていた手を、ぎゅ、と掴みなおした。
「こっち」
「こっちですわ」
ぐいっ、と力を込められれば、美弥は前のめりなりながら座り込んでいた地面から腰を上げた。
「え、ちょっとまって! ね、私が迷子ってどういうこと?」
返答によっちゃあ、この後佐久間のお説教が待ってたりするんですけどぉぉっ!
涙声になりながら、ぐいぐいと手を引っ張る二人の後について行った。




二人は美弥の手を引きながら、前に続く小道を早足で進んでいた。
込み上げてくる焦燥と喜びが、二人の足を、感情を追い立てる。

絶対に、叱られる。
絶対に、睨まれる。

この後の自分たちに何が待っているか想像は難しくないけれど、それでも二人は美弥を主のもとへと連れ急ぐ。

怒られてもいい、睨まれてもいい。
もしかしたら、捨てられてしまうかもしれない。

それでも。
それでも。

走りながら、ふと、お互いに目を見合わせる。




主さまに、会いたい。




9 11



chachaさんに続け!的に更新(笑

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Author:kazu osino
名前  kazu osino
生息地 関東のとある家。
英語の苦手な、ちゃっかり主婦。
ブログ内記事、文章は無断転載
転用禁止にさせていただきます。
する方、いないと思いますが。
よろしくお願いいたします。

…プロフの画像を載せる事によって、
お金が入ってきたらいいなとか
お、思ってないんだからっ(笑

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